mezzosoprano 鳥木弥生blog

オペラ歌手(メゾソプラノ)鳥木弥生の日常、演奏会情報など。

お別れ。

私が所属する藤原歌劇団は昨年創立80周年を迎えた歴史のある歌劇団です。


今日は、私が藤原歌劇団にお世話になることになった経緯を思い出した日でした。

私の記憶が確かならば、始まりは12、3年前。
藤原歌劇団のどなたかが、来日していたイタリア人の某テノールに「今若いメゾソプラノを探している」と言ったところ、彼が「この間聴いた日本人のメゾソプラノが良かったよ」と、私のことを話し、それを鵜呑みにした(笑)方が、私に藤原歌劇団の公演への出演を依頼して下さいました。

その話をいただいた直後、私がフィレンツェ市立歌劇場のオペラスタジオのオーディションに合格し、その出演はお断りすることになったのですが......。

しかし、その数年後ローマで開催された韓国人の某指揮者のオーディションを私が受け、そこから、彼が指揮する藤原歌劇団/オランジュ音楽祭共同制作の「カルメン」に、メルセデス役で出演することに。
藤原歌劇団の公演監督が岡山廣幸氏に変わってしばらくした頃でした。

直接教わってはいないのですが、私が在学当時に武蔵野音楽大学でも教鞭をとっていらっしゃったので、「岡山先生」。

カルメン」への出演がご縁で翌年藤原歌劇団の「ラ・トラヴィアータ」に出させていただきました。

その稽古中、2幕2場。
フローラ役の私がスタンバイしていると、その日お休みだったグランヴィル医師役のアンダースタディーとして!?なんと公演監督の岡山先生が参加。

稽古が進行する中、私の隣にお立ちになり、低ーいバスの声で「ねえ、藤原入ろうよ」と、何度も囁くのでした(笑)。

その公演に参加することになった時にも入団の話はあったのですが、当時私はまだイタリアに住んでいて、日本の団体に所属するべきなのかどうか分からず、迷っていました。

しかし、確かすでに通し稽古も近く、演出家も指揮者も厳しい目で見守る中、もうすぐ歌い出さなきゃ、という一瞬前まで岡山先生に「ねえ、入ろうよ」と囁かれ、思わず「あ、じゃあ、はい」と返答。

あれは本当に有効だったのか?

と考えているうちに、しっかり私の名前も記載された藤原歌劇団の名簿が送られてきて、

あ、やっぱり私、入団したんだ......。

と、自覚。

そんな経緯で、私は藤原歌劇団に入りました。
たぶん他にもそんな風に岡山先生に口説かれた?方々がいるに違いありません。
手慣れた感じでしたから!(笑)



さて、今日それを思い出したのは、岡山先生のご葬儀に参列したからでした。


先生との思い出と、お別れについてまっすぐに書き始められるほど私は先生にご恩返しもしていない気がして、読んで誰が楽しいとも思えない自分語りで始めてしまいましたけれど......。


子供好きだった先生が私の息子を「○○○くーん」とものすごく低いのに、まるで子供同士で遊んでいるような口調で呼ぶ声が忘れられません。

あんなにも低い声で息子の名を呼び、楽しく遊んでくれた人は他にいません。

......たぶんこれからも現れないでしょう。


先生が作った子供の為のオペラのリハーサルに「子供の反応を見たいから」と呼んで下さり、息子に貴重な体験もさせて下さいました。


そして私は、先生のおかげでたくさんの素敵な役を歌い、演じることが出来ました。

一緒に撮った写真を探したら、一昨年の7月のものしかありませんでした。
サントリーホールの楽屋エレベーター前...。

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先生!輝いてます!!!



ご葬儀の間思い出していたのは、先生がどうしてもやりたかったと仰っていて、生後6ヶ月の息子を抱え、修道女の衣装の隙間から授乳しつつ私も出演した、2010年の藤原歌劇団公演、プーランクカルメル会修道女の対話」の舞台。

本日は浄土真宗のお寺でのご葬儀でしたが、厳粛な雰囲気のお堂が舞台での祭壇を思わせたし、その公演で共演した方々のお顔も多く見て、カルメル会も指を伸ばして手を合わせる祈り方で、舞台でも同じように祈っていたからというのもあるかもしれません。


奇しくもご葬儀の後、その「カルメル会」でマダム・リドワーヌを演じられた大先輩の本宮寛子さんから若い頃の岡山先生の楽しいエピソード(武勇伝!?)をたくさんお聞きする時間を持てました。
岡山先生の存在は、むしろ今、私の中でより生き生きとしたものになっております。
たぶん一緒にお話を聞いた小林あっちゃんと、山口佳子ちゃんの中でも!!


藤原歌劇団の総監督というお立場ながら、常に遊び心が溢れに溢れる本当に楽しい方でした。

安らかだけれど、今にも笑いだしそうな明るいお顔で眠っていらっしゃいました。

早すぎるお別れで、もうお会いできないのが残念でなりません。

心からの感謝を込めた祈りが、先生に届きますように。

先生、ありがとうございました。