mezzosoprano 鳥木弥生blog

オペラ歌手(メゾソプラノ)鳥木弥生の日常、演奏会情報など。

桜と雪。

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3月29日、13時ごろの代々木公園の桜。
10時半くらいから公園にいたのですが、着いたときにはまだほんの咲き始めだった花がみるみる綻んでいきました。

大学の同級生で、私よりひと足先にイタリアに留学し、ひと足先に帰国して3児の母となった友人、その子供たちと久々の対面。
イタリアが長い私たちらしく、待ち合わせは「代々木公園で!」という大変広い範囲のアバウト設定でしたが、割とすんなり会えました。何かと不便なイタリア暮らしは人間の第六感を呼び覚まします。”本当です”。

お子さま4人と親たち、一緒にサイクリングして、花を見て、ピクニック。かくれんぼ、鬼ごっこ...。

子供たちの成長にも、桜の開花のごとく美しく鮮やかな力強さを感じました。
また会いたいな。


さて、楽しく遊んだのち、私は息子を夫に託してオペラ鑑賞。

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いつも金沢に第九を歌いに来てくれる倉石真さんが与ひょう役で出演のオペラ「夕鶴」。

オーソドックスな舞台ではない、と聞いていたので入り込めるか心配だったのですが、千住博さんの作品をふんだんに使用した美しい舞台美術で、心情表現などは自然そのものだったので、問題なく楽しめました。
ヒロイン「つう」が歌う中に、ヴェルディリゴレット」のアリア「悪魔め、鬼め」のような曲があり、そのシーンが演出(市川右近さん)とマッチしていて、迫力あったなあ。
森英恵さんの衣装も美しかった。
我らがくらちゃんは、与ひょうにしては意外と格好良過ぎたかもしれませんが(笑)、立派でございました。大成功、おめでとうございます!

休憩中には千住明さんにお会いして「絵が動いてるの、分かった?」なんて、自慢?されましたが、気付きますよ!
つうと与ひょうが抱き合うと、二人は宇宙に包まれ、流れ星が流れたんですから!!
あれには軽く驚愕しました。

千住明さんの作曲で今年1月に初演され、私も出演した「滝の白糸」でもその手法を使いたかったそうなので......再演、期待してます!
おっかさんのシーンで宇宙出してもらえるかなあ。
ちなみに私は「宇宙」と思いましたが、「天の川」だったみたいです。千住さんにも「宇宙すごいっすねー」みたいに言ってしまった自分が恥ずかしい...。

劇中、与ひょうが「都に行きたい。今頃は桜が咲いているらしい」というようなことを歌うのですが、彼等の住むところは雪が降り積もっている様子。
「都に桜が咲いている」なら、ちょうど季節は今頃。そして、今雪が降り積もっているのは日本のどこ??北海道??
と、疑問が湧き、調べてみたところ「夕鶴の碑」は新潟県佐渡にあり、「夕鶴の里」をうたっているのは山形県南陽市
どこが何の本場か、みたいな問題はアンタッチャブルな気もしますが(笑)、方言や雪深さのイメージからして、奥羽山脈近くの方が自然かな。
でも今、雪降ってはいないだろうな。

ついでに「ガラスの仮面」で「紅天女」の作者、尾崎一蓮から「他の人は演じてはならぬ」と、上演権を与えられた月影千草のモデルが、木下順二が彼女のために「夕鶴」を書き、長年「つう」をただひとり演じていた山本安英だったという逸話も発見。

そういえば、オペラ「夕鶴」を作曲した團伊玖磨も、「つう」を歌うソプラノ、この人こそ!と思える歌手を常に探していた、と、生前近しかったピアニストの方から聞いたことがあります

現実、虚構ごっちゃにしておいてなんですけど、「ただひとりの人を見つけたい」願望。男性が抱きがちなんでしょうか。
私がもし戯曲作家や作曲家なら、色んな人に色んな解釈で演じて欲しいかな。

でも「滝の白糸」の千住さんは数種類のキャストチームを組んでロングランを!と語っておられましたし、色々ですよね。時代も違うし。
ただ、「白糸」こそ、初演の中嶋彰子さんが、容姿、キャラクター、そして何より大切な声、歌唱においてはまり役過ぎて、他を探すのはかなり難しいのではないかな、と思うんですけどね。

「夕鶴」はまた他のソプラノでも聴いてみたいな、と思いました。